酵母のグルコース抑制の研究 †出芽酵母のアルコール発酵と好気呼吸の切り替えメカニズムを解明することは、酒類やエタノールの生産、そして酵母を用いた有用物質の生産に重要である。酵母におけるグルコース抑制とは、グルコースが好気呼吸代謝や他の糖代謝を抑制し,グルコースを用いたアルコール発酵を優先的に行う現象である。本研究室では、出芽酵母のリボソーム結合性分子シャペロン制御因子であるZuo1がグルコース抑制に必要であることを見いだし、Zuo1のグルコース抑制における役割を研究している(Yamada, et al., FEMS yeast research, 2023)。 酵母における多剤耐性の研究 †真菌類の酵母であるカンジダ菌は,エイズや癌などにおける重篤な日和見感染症であるカンジダ症を引き起こすことが知られている.その治療にはフルコナゾールなどの選択毒性のある抗真菌薬が用いられている.しかしながら,薬剤長期投与時において多剤排出ポンプ遺伝子が発現昂進する多剤耐性株の出現が問題となっている.本研究室では,カンジダ菌と同様に真菌類に属する出芽酵母を用いて、多剤排出ポンプ遺伝子が発現昂進するメカニズムを解明する研究を行っている.最近では,ヒストン脱アセチル化酵素であるRPD3遺伝子とこれを特定の遺伝子に運搬する役割を持つUME6遺伝子が,ミトコンドリアDNAを欠損した出芽酵母における多剤排出ポンプ遺伝子の発現昂進と多剤耐性化に必要であることを初めて報告している(Yamada, BMC Microbiology, 2021)。下図は、スポット法による各遺伝子欠損株の薬剤耐性を調べた結果例を示している。 ゲノムメチル化の研究 †哺乳類細胞中に存在するCpGメチレースと呼ばれる酵素は、ゲノム上の殆どのCpG配列のシトシン塩基にメチル基を付加(メチル化)する。この例外は、ヒトの約半数の遺伝子転写制御領域(プロモータ)に存在するCpG配列に富んだCpG island (CGI)である。CGI上のCpGジヌクレオチド配列は通常、すべての発生段階及び成体組織においてメチル化から免れている。しかしながら、由来する親の性別に依存して一方のアレルのみが発現するインプリント遺伝子近傍とX染色体上に存在するCGIはこの例外であり、アレル特異的なメチル化を受けている。 また、海外の複数の研究グループにより、配列依存的アレル特異的メチル化が、ヒト及びマウスゲノム上において普遍的に存在することが報告されている。このため、非コーディング領域における多型配列が引き起こす各種疾患感受性差異のメカニズムを、配列依存的アレル特異的メチル化により引き起こされる遺伝子発現差異を通して理解できるのではないかと期待されている。また実際に、FTO (fat mass and obesity associated)Type 2糖尿病・肥満では、疾患感受性ハプロタイプ特異的なメチル化が既に報告されている。 マイクロアレイデータ及び次世代シークエンスデータ解析アルゴリズムの開発 †マイクロアレイやRNAシークエンスは、数千、数万の遺伝子機能発現状態を一度に定量可能な遺伝子工学の技術である。しかしながらこのような膨大な遺伝子発現データから有用な知見を発見し、薬剤開発や医療診断などに役立てるためには、人手による作業では限界がある。そこで、本研究室ではコンピュータを用いた統計解析を通して、遺伝子発現データ解析アルゴリズムの開発を行っている(Yamada et al., BMC Research Notes, 2012)。また、次世代シークエンスデータを用いた突然変異解析や異常転写物の同定なども行っている。下図は、次世代シークエンスデータのゲノム上へのマッピング結果例を示している。 |